龍姫湖・温井ダムまつり・温井ダム達人講座レポート
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温井ダム管理所
温井ダム管理所・操作室(写真は全て管理所の許可を得て撮影しています)


 温井ダムは堤高(高さ)156mとアーチ式ダムでは国内2番目の規模を誇るダムです・・そして西日本最大のダムです。ダムのある加計町では温井ダムを観光資源として活用し、いろいろなイベントをダム周辺で行っています。そんなイベントのひとつ「龍姫湖・温井ダムまつり」が行われることを温井ダム管理所のホームページで見つけました。11月末で営業が終わる可部線にも乗りたかったし・・・「温井ダム達人講座」がある・・。
 けんはダムの写真をサイトで扱っていながら、ダムの知識は初心者レベル・・一度、現場の人からお話を聞いてみたいし、ダムの中も見てみたい・・・それで、可部線でガタゴト・・加計町へ向かいました。


イベント会場

 加計駅で無料のシャトルバスに乗車し、イベント会場へ・・すでにイベントが始まって40分ほど経過している。駐車場は満車・・遠くから観光バスが多数きている・・これを見てかなり焦った・・なぜなら「温井ダム達人講座」は当日受付、定員40人・・すでに定員に達している可能性がある・・受付を探してうろうろしてしまったが、受付が本部だと分かったら、急いで本部へ・・


 


 本部へ行くと、受付発見・・「温井ダム達人講座はまだ受け付けていますか?」と尋ねると「はい、ここに名前と住所を書いて申し込めます」・・(^。^;)ホッ・・セーフだ・・「達人講座は午後1時、管理棟前に集合してください」とのこと・・・時間に余裕があるので、イベント会場や、展望台などを散策・・写真もいろいろ写しました・・特に、紅葉していた滝山峡記念庭園の写真は、今年の紅葉の写真では一番のできになりました。後で行った三段峡は紅葉がさっぱりだったし・・・
 さて、展望台で昼食をとっていたら、遊覧飛行のヘリが何度も上空を通過する。あれに乗れば、ダムを空から写せるなぁ・・と思うけど・・やっぱ、空を飛ぶ乗り物は怖いからやめとこう・・・・(結局、達人講座の後、あれに乗ることになるが(苦笑)・・・)


 午後1時に間に合うようにダム堰堤を渡って、管理棟前に・・・男性の方一人と、若い女性の方一人が・・待っているような雰囲気・・男性の方は管理所の人だろうから・・まだ参加者は一人しか来ていないのか・・と思いましたが「達人講座はここで待てばよいですか?」と聞けば・・・「それじゃ始めますか」と・・え??・・参加者2名??・・・それで、自己紹介されると・・男性の方は確かに管理所の方だったが、女性の方はイベントを仕切っている加計町の職員・・・うぉぉぉ・・・参加者・・けんさん1名(爆)・・
 こういう現場の方の話を聞ける機会はそんなにないのに・・と思いながらも・・・いろいろマニアックなことを聞くことができるかもと・・ちょっと期待(爆)


ダム情報の表示板

 管理所は、管理棟の2階・・事前に、写真撮影の可否を尋ねると、事務所以外は問題ないとのこと・・そして、操作室へ案内してくれました。操作室は、近未来の宇宙基地を連想するようなたたずまい。広い部屋に、ダムの情報を表示するモニタやダムを制御するための制御卓などがすっきりと配置されていました。温井ダムの情報はここで集中管理し、ダムの設備の操作もここからできるそうです・・。


 

 まず、管理所の方からダムの基本的な話を・・どんな役割があるか、どのようにその役割を果たしているのかといった話や、ダムの歴史の話を・・。
 昔の灌漑用のため池から始まり(ため池も立派なアースダムです)・・明治時代になるとコンクリートのダムが建設されるようになる。その頃のダムは、水道用水や灌漑用水、発電などのダムですが、一つのダムの役割は一つだけ・・つまり発電用だったら発電だけに使われるような感じだった。
 戦後、高度成長の時期には不足する電力を補うため、発電用ダムが多数建設されました。佐久間ダム、黒部ダム、奥只見ダムといった巨大ダムはその頃のダムです。そして、最近できた新しいダムは、ほとんどが多目的ダム・・水道用水、灌漑用水、発電、河川流量維持、洪水調整・・一つのダムで、いくつもの役割を担っています。温井ダムも多目的ダムですが、特に重要な役割は洪水調整と水道用水の確保です。


温井ダムコンジットゲート

 洪水調整とは、上流で集中豪雨が降った時、そのまま下流に流すと河川の水位が上がり、浸水の被害や、場合によっては堤防越流・決壊といった重大な事態も発生します。それでダムで一時的に水を貯留して流入水量より少なく放流します。どの程度までなら安全な水量か分かっているので、ダムから安全な水量だけ流し残りの部分は貯水池に貯め込みます。温井ダムの場合、下流に流しても安全な水量は毎秒400トン程度・・それ以上の水はダムに貯め込みます。

○ (4つあるゲートがコンジットゲート→)


 

 温井ダムで洪水調整をする場合、ダムの下の方に設置されている常用洪水吐(じょうようこうずいばき・別名コンジットゲート)の開度を一定にして調整します。なお、下流の河川整備が終了すれば、毎秒1100トンの放流が可能になります。温井ダムを設計する時、洪水時には毎秒1100トンの放流を前提にしているので、現状の毎秒400トン程度の放流では、予定より早く貯水池の容量を使い果たしてしまいますが、観測史上最大の水害の時の流入量でも、毎秒400トンの放流で大丈夫なんだそうです。

 洪水調整可能なダムは、貯水率100%の貯水量が有効貯水量の半分程度になっており、残りの部分で洪水調整をするように運用されています。一方、発電専用ダムは、天端(てんば、ダムのてっぺん)にあるゲート(クレストゲートと呼ばれる)しか装備されていないのが普通で、しかも、可能な限り満水に近くなるように運用されており、洪水時には概ね、流れ込んだ水をそのまま下流に流します。役割が違うと運用方法もちがうんですね。

 太田川の治水は、まず太田川放水路を建設し、洪水時には放水路へ流す方法で行われていました。しかし、地下街や地下鉄といった市街地の高度化は、洪水に対して極めて脆弱です。それゆえ、より安全度を高める必要が生じ、温井ダムで洪水調整することになったそうです。


 水道用水の確保については、広島県では太田川の水を高瀬堰で取水し、広島市、呉市、東広島市、竹原市、その他瀬戸内海沿岸の町や島嶼部の町へ送水しています。ところが、人口の増大による需要の増大や生活の質の向上によって一人当たりの使用水量が増えたことにより、より多くの水道用水が必要になり、江の川水系に土師ダムを建設して、そこから太田川に分水するようにしました。それでも、渇水時には頻繁に取水制限などが行われ、さらに水源が必要ということで、温井ダムで水道用水を確保することになったそうです。去年の秋から今年の早春にかけて、実はかなりの渇水で、温井ダムが無かったら取水制限が行われる事態になっていたのですが、温井ダムのおかげで、何事もないように市民はすごせたのです。
 また、太田川には中国電力の発電用ダムが大きい物で3基ありますが、温井ダム建設前は、渇水になりそうだということになれば、中国電力さんへ発電を控えて水道用水の分を貯め込むようお願いをしていたそうです。今後は、まず温井ダムの水を放流して、それでも足らないようなら、中国電力さんへ話をすることになるそうです。


 さて、話はさらに進み、スクリーンに過去から現在、そして近未来にかけての国内のダムの総貯水量のグラフが表示されました・・明治以後、総貯水量が増えだし、特に高度成長の時期にはたくさんダムが建設されたことが分かります。そして、近未来はあまり増えなくなっている・・・。ここで、意味深な発言をされました「これからは温井ダムのような大規模なダムは造られなくなるだろう」・・・
 それで「それは適地が少ないということですか?」と尋ねると、「適地の問題もありますが、ダムには環境への影響、水没する地区に住んでいる人の生活への影響など、デメリットもある・・実際に、レッドデータブックに掲載されるほどではないが広島県内ではここにしかいない生物もいました。植物なら移植という手段が使えるが、動物だと移送してもそこで生活できるかどうかは分からない」・・・その上で、「ダムは一つの選択肢だとお考えください」と言われました・・・

 「・・例えば、洪水に対する防御を、ダムで行うのか、堤防のかさ上げ・河川拡張で行うのか・・あるいは、河川になるべく手をつけたくないというのなら、年に何度かは浸水してもかまわないという選択肢もありえます・・もちろん、浸水する地域の人の同意が必要ですが・・。
 建設省(現国土交通省)が、太田川の治水の要として温井ダムの建設を考えたのは、コストの問題もあります・・何十Kmもある河川の堤防かさ上げ・河川拡張は、たいへんなコストがかかるうえ、拡張地域は人口密集地かつ取得する面積もかなりのものになります。また、広島市の市街地の高度化により市街地が浸水すると甚大な被害が発生し、太田川にはより高い安全性が求められるようになりました・・それで現在温井ダムがある場所にダムを建設するのが効果的であると判断し、建設予定地の加計町と水没地域になる温井地区の住民の方にダム建設への協力と理解をお願いした経緯があります。」・・・このお話しは、今回の「達人講座」で最も興味深かったです・・


 これからは、いくつかある選択肢のメリット・デメリット等を理解したうえで、河川行政はどうあるべきか、一人一人考える時期になっているように思います・・単純にダム賛成・反対と言うのは簡単です・・最近の風潮として物事を単純化してしまう傾向がありますが・・そうではなく、いろいろ勉強して、考えていく・・これは河川行政だけではなく、国政や地域の政策といったことも・・・。また、河川行政は、下流の住民の利益を守るため、上流の住民の方に無理なお願いをするというパターンが多くなります。単に、下流の大都市だけのことだけで考えず、流域全体で考えないといけない問題でもあります。

 そういう意味で、こういった現場の見学ができる機会があれば、積極的に参加されることをおすすめします(例えば、夏にある「森と湖に親しむ旬間」では、各地のダムで見学会が行われています)・・現場の見学はダムの運用面での話が多いですが、とても意義があると思います・・自分が本当だと思っていたことが実は誤解だったということもよくあります。今回は、参加者はけん一人でしたが、皆さんもこういった見学できるチャンスをもっと利用していただきたいと思います。


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