日本一縦長のダム・帝釈川ダムリニューアル工事現場見学レポート・その3

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 集合して・・まず座学から・・

 集合場所は広島県庄原市東城町にある、新帝釈川発電所建設所。私が一番最初に着いてしまったようです・・しばらくしたら、お世話になる副所長様が中を案内してくれました・・すでに2階には座学できるように資料等が用意されていました。
 荷物を置いて、見学会参加の皆さんを待つことに、ほどなく、さんちゃん、tagさん、灰エースさん、あべべぇーさん、ふかちゃん・・そして、家の一族(謎)が集まり・・では・・始めますかということで、2階で説明をしていただきました。

 まず、建設所の2階で副所長様が建設工事や帝釈川ダムの概要を説明してくれました。

 ここで重要なポイント・・個人的には・・
 
  ・今後、多くなると考えられるダムの再開発である・・
  ・既存の水力発電所を再開発する事例である・・
  ・国定公園内でのダム工事である・・
 
 等・・ではないかと思います・・見学時はこのことを念頭に見学しました。

 パソコンのパワーポイントを使い、それを見ながらの話はとても分かりやすかったです。

 帝釈川ダムの概要

 帝釈川ダムは大正9年に関西や岡山方面に送電するために計画着工され、大正13年3月に完成、堤高(高さ)は56.4mで、当時国内最高のダムだったそうです。(単行本「ダムのはなし」の中には出てきませんが、温井ダムの資料館のダムの歴史の展示には、ちゃんと一時的に国内最高だったことが書いてあります)そして、昭和6年にダムを約5.6m嵩上げし、堤高62.1mとなりました。昭和41年に洪水吐(こうずいばき(大雨等の時にダムの水を安全に放流する設備です))の改良が行われています。

 ダムの特徴としては、幅より高さが高いこと、急峻な渓谷にくさび状に設置されていること。洪水吐(こうずいばき)がトンネルであり、ダム本体は非越流型となっていること(ダムの上から水を放流するようになっていない)。ダムの体積が小さい(横幅が狭い)ため、貯水効率が高く(ダムの体積と貯水池の容量の比率です・・ダムが小さく、貯水池の容量が大きければ効率はよくなります)、国内4位であること・・等があり、貯水池の神龍湖は国定公園・帝釈峡の一部で観光地となっており、遊覧船が運行されています。

 工事については・・

 さて、帝釈川ダムのリニューアル工事及び新帝釈川発電所の工事については、帝釈川ダムが建設から80年たっているので補強等をしたい、せっかく高さが60m以上のダムでありながら未利用落差が35.6mもあり、これを有効利用したいこと(水力発電を行う場合、同じ水の量なら落差が大きいほど発電出力を稼げる)。トンネル式洪水吐だけでは、大洪水の時、放流能力に不安があり、ダム本体にゲートを設置して十分な放流能力を確保したい・・といったことがあること・・そして、既存の帝釈川発電所は帝釈川ダムと福桝川取水ダム(高さ15m未満なので正確には堰です)からの水をあわせて発電していましたが、これを福桝川取水ダムからの水だけで発電するように規模を縮小して、既存の帝釈川発電所の横に新帝釈川発電所を建設することになりました。当然、導水路トンネル等も新設することになります。

 既存の帝釈川発電所の出力は最大4400KWですが、新帝釈川発電所は最大1万1000KWの出力を得られるとのこと。既存の発電所が縮小され2000KW程度になるものの、新・旧帝釈川発電所両方あわせると年間発電量は1.5倍程度になるということです。

 工事前に、既存の堤体の調査が行われましたが、コンクリートの強度などに全く問題なく、既存の堤体の一部を掘削し、大半は利用したうえで、下流側にコンクリートを打ち増すことになったそうです。

 環境・景観に配慮した工事・・

 工事にあたっては、現場は国定公園内であり、数々の制約があります。まず、現場へ通じる道路は拡幅が許可されず、車一台が通れるような道(幅3.5m)しか使えない。ダムの工事なら当然重機を入れたいが、この道路幅がネックになりました。現場では80トンクレーンを使っていますが、本来はもっと大きなものを使いたかったそうです。でも、道路を通れるギリギリの大きさのクレーンがそれだったので、これを使うしかなかったそうです。なお、カーブなどは仮設の足場で拡幅してあったが、これらも、工事完了後は、工事前の状態に復元することになる・・よくダムの工事現場では、現場上空をケーブルが張ってあり、そこからコンクリートを運んだりするものですが、ここではそういった方法は使わなかったとのことです。

 工事現場は仮設の足場で道路等が作られていましたが、これも工事完了後には撤去され、景観への影響がないよう配慮しています。また、80トンクレーンでは堤体の最下部まで届かないので、古い堤体の上にも仮設の足場を作りクレーンをそちらへ動かして作業したそうです。

 工事は環境への影響を配慮しながらの工事で、現場付近の希少動植物は他の安全な場所へ移動、また、クマタカの生息が確認されたので、クマタカの繁殖期には掘削工事は原則として行わない・・機材も低騒音型のものを選び、防音シート等も使ったとそうです。そして、常に、そういった生物のモニタリングを行っている・・何かあれば専門家から意見を聞くようにしているそうです。

 そして、現場が急峻な崖で囲まれているので、工事も難しく・・ある意味、手作業の工事になっているそうです・・見学当日も、工事は行われていましたが、重機は動いておらず、手作業でした。また、古い堤体を掘削してできた岩や土砂を運び出すのにはやはりダンプが使われていますが、拡幅できなかった狭い道を通るそうです。そしてコンクリートを運ぶミキサー車も同じ道を通るそうです。

 ダムの工事では、コンクリート製造設備を建設現場近くに作って、そこからコンクリートを供給するのですが、帝釈川ダムの改造工事の場合、既存のコンクリート製造設備を利用して、コンクリートはそこからミキサー車で運ぶ方法がとられました。コンクリートを冷却するためミキサー車にも工夫をしているそうです。(コンクリートの材料であるセメントは水と混ぜると熱を発生してしまうので冷却する必要があります)

 質問です・・

 さて・・ここでいくつか質問しました・・

Q.まず、火力発電所等に比べ出力の小さな水力発電所を改造して使うのは?・・

A.既存の設備を有効利用するという考え方です。つまり未使用落差を使うことにより今までより有効にダムを利用できます。また、放流能力をアップすることによって安全性が高まり、今までより若干高めの水位で運用できます。

Q.改造前の堤体が若干アーチ形状をだったそうですが、アーチの効果はあったのですか?

A.コンピュータ解析した結果では、微妙にアーチの効果もありました。

Q.それじゃ、重力式アーチになるのですか?

A.ウーン・・どうかな??・・重力式アーチというほどじゃないでしょう。

Q.今までで、最大の放流量は?

A.昭和47年の水害の時で毎秒650立方m(トン)・・トンネル式洪水吐の放流能力毎秒750立方m(トン)すれすれのレベルです。トンネル式洪水吐は、放流能力以上の放流は事実上不可能・・だからぎりぎりです・・通常の放流設備なら水位が上がれば放流量も増えるので、能書きの放流能力より若干余裕があります。

Q.新帝釈川発電所の年間発電量はどの程度になるのでしょうか?・・

A.従来の帝釈川発電所の年間発電量が2280万KWhで、新帝釈川発電所は3520万KWh程度になるものと考えています。

Q.工事完成後、通常の水位は常時満水位で運用しますか?

A.それはないと思います・・2mくらい下げるのではないでしょうか?これは、集中豪雨等で急激に水が流入してきた時に、対応するまで多少時間をかせぐことができる・・当然、ダムの下流に放流しますよ〜と警告したとき、河川内にいる人が避難する時間も必要です。
また、どのくらいの水位で運用するかは、(注:中国電力様管轄のダムに限定した話です・・つまり発電専用ダムの話、多目的ダムだと話がちがってきます)それぞれのダムで違います・・1m下げたぐらいで運用しているところもあるみたいですね、でも1mだと、何かあったら即対応しないといけないから、すぐに対応できるダムじゃないとできないですね・・3mくらい下げている所もあるだろうし・・普通は2〜3m下げて運用することが多いようです。
(発電用ダムでは落差が大きいほど効率よく発電できます、だから、本当は、なるべく高い水位で運用したいと思うのですが・・このように非常時の対応を考えているんですね。)

Q.ダムといえば砂ですぐに埋まるといった報道がありますが、帝釈川ダムの碓砂の状況はどうなんでしょう?

A.砂はほとんど貯まっていないですね。もし、ある程度以上貯まれば浚渫等の対策を行うことになりますが、そこまで砂は貯まっていないです・・

座学の様子
 
写真は、座学の様子です・・
撮影機材 キヤノン製デジタルカメラ パワーショットS30

 さて・・質問はこの程度にして、次は遊覧船へ・・・・・


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